2009.05.26 08:00:00

Vol. 1 大日本印刷が丸善、ジュンク堂に続き、ブックオフを傘下にした件について (2)

ブックオフの筆頭株主になった大日本印刷(以下、DNP)の本懐とは一体、何か。「メディア問題」の2人が語る、DNPによるブックオフ問題の深層。


小:そういえば、ブックオフとその他古書店は競合しないんですかね? わたしのなかではゲームソフトと漫画はブックオフから、ニッチな書籍や雑誌は古書店で買うからバッティングしませんが...。

橘:昔から、新刊出版社と古書店とは、不思議な共存をしてきたんだな。古書店は、出版社の出した本を鑑定して、後世に残る本だけを残してきた。それは神保町や古書会館の果たした役割であり、出版社の編集者も古書店に通って価値ある古書を探してきた。


小:たしかに、若い頃は古書店に足を運び、そこで新たな企画のヒントを思いついたり、いろいろ調べましたね。まあ、インターネットがなかったことも大きいのですが。

橘:だけどブックオフは、そうした旧来の古書店の役割を否定し、チリガミ交換レベルの作業で大量生産された本のリサイクル事業として成功したわけだ。実は、マスセールだけに走った大手出版社が、その結果として自ら作り上げたのがブックオフなんだ。

つまり新刊書店は新刊なら何でもあるから、逆に普通の人には何を読めばよいのかわからない。ブックオフはたくさん売れたものがメインの商品なので、読者も選びやすい。実際、専門書の出版社が発行する書籍は部数が少なく、ブックオフには並ばないから、あまり関係ないんだな。


情報リサイクルとスクリーニングの差

小:つまり古書店にはスクリーニング(ふるい分ける)機能が働いていたけれど、ブックオフはただのリサイクル業者というわけですね。どおりで、わたしが持ち込んだ稀少本を安く買い叩くわけだ(笑)。

橘:古書店の「メキキ(目利き)」機能が、後世に残す本と死滅させる本とを選別していたわけで、その機能がなくなると、もう名著が次世代に継承されなくなると古本屋の親父は嘆いているんだね。

もっとも古本屋の親父も、店舗閉めてアマゾンのマーケットプレイスにせっせと出品しているのが多いからなあ。それと「せどり(背取り)」が一般化して、ブックオフで貴重な本を安く買って古本屋に高く売るというのが流行だよね。聞いたところによると、せどり同士の情報交換を目的とした携帯サイトもあるっていう話だし。


小:価値がわかっていないブックオフから安価に仕入れて、転売というのはアリですね。でも、それってタコが自分の足を食っているだけで、業界に還元されませんよね。

橘:数年前、神保町の老舗古書店が廃業した店舗に、ブックオフが出店するという話があって大騒ぎになった。既存古書店にとってもブックオフは天敵なんだ。あれだけ古本屋が並んでいる町にブックオフがないというのも不思議な光景だよね。結局、その店は小学館が借りることになって、良質な児童書などを販売する店になっているよ。


版元から書店までを含む統合は、会計処理対策か?

小:今回の垂直統合は、「絵の描き方」がきれいすぎですね。こんなに青色吐息な業態をいろいろ抱えてどうするんだろうといった心配もあります。もしかしたら、会計上、在庫の評価方法が変わったことと関係あるのかな? ...と、元サイゾー編集人っぽく勘ぐってみますが(笑)。

 低価法

橘:出版社がブックオフに投資したいとすれば、在庫調整に使いたい、という観点があるという噂もあるようだね。

どうやら米国式会計基準が導入されると、現在の出版社の在庫が、定価から実態の価値に落とされる。すると資産がぐっと減ってしまう、ということになる。

小:出版社を経営していた経験からいえば、上場企業並の基準にすべく、監査法人の指導のもと在庫の引当をしました。そしたら、途端にBS(バランスシート)の損が膨らみ、もう大変(笑)。そのときに出版ビジネスの特殊性に気づきました。多くの出版社は棚卸し資産を過大評価していますね。

かつてBIS規制により銀行の不良債権額を増やせ、といって銀行が青色吐息で引当したけれど、出版社も棚卸資産の引当を遵守したら、多くは深刻な事態に陥るでしょう。

 BIS規制と日本

もともと業界は会計が不透明なうえに、委託販売なので取引の流れが複雑です。ここに版元、取次、書店、新古書店が加わると、ひとつの可能性としてグループ内取引で在庫調整ができるかもしれない。

橘: 多くの出版社は未上場企業だから、開示を求められない限り、なあなあになるかもしれないね。

小: グループ間取引を使って「納品→入金→返品」のサイクルを調整しておけば、儲かりはしなくとも、潰れない程度にキャッシュフローだけは回りますね。

そんなことまで視野に入っているとしたら、業界がグルになった在庫ロンダリングの温床になる気がします。いま自分で話をしながら、「その手があったのか!」と思いました(笑)。でも、DNPは純粋にメディアにおける垂直統合をやりたいだけなのかもしれませんが...。

橘:昔から、他の事業で成功すると出版やりたがる人、多いからね(笑)。半分道楽入ってる業界だから、マジメなビジネスマンがマジメにビジネスとして考えると火傷するよ(笑)。

小:たしかに。2005年頃にカネ余りの状態だった外資の金融系から、日本の出版社を買いたいってコンサル案件が数多く舞い込んだことがあります。でも、結局、彼らにはこのビジネスの肝心な部分が理解できていませんでした。秀才が頭で考えたとおりにコトが運ばないのは、メディアが人のココロとかかわる情動的なソフトウェアだからです。


印刷会社の本懐とは?

橘:ちょっと本質的なことを語ってみよう。DNPが目指すものは一体、何か。まず、印刷会社というのは、常に時代の文化をサポートする産業として成長してきたんだよね。

明治社会の中でスタートした日本近代文学の成長とともに書籍印刷が発展し、戦後のマスプロダクトと大量宣伝という広告文化を背景にして商業印刷事業が発展してきた。しかし、出版文化というのは、なくならないまでも、今後発展していくものではないだろうね。

今回のDNPの動きは、むしろ後ろ向きの資産投下に思えてしまうんだな。これからの社会文化は、間違いなく、インターネットを中心とした「P2Pのコミュニケーション文化」に他ならないと思うし、その文化をサポートすることに資産を投下すべきだと思う。

小:わたしが思うに、「マスプロダクト」は日用品(コモデティ)ぐらいしか残らなくなり、それ以外の「なくても生きていける系プロダクト」は「カスタマイズ可能なもの」に軸足を移すのではないかと思います。

よって、印刷会社にはカスタマイズ可能な本の開発を期待したいですね。あ、無理言ってる(笑)? 単にeペーパーを普及していただければよいのですが(笑)。

橘:印刷屋は典型的な「ゴールドラッシュ・ビジネス」で、つまりアメリカの西部開拓時代に儲けたのは金鉱堀ではなくて、リーバイスとかのサポート屋。半導体の会社よりは半導体製造機械のメーカーの方が確実に儲かるし、落ち込んでも逃げやすいしね。

これまでも印刷屋が作った本とか雑誌って、どれもつまらないだろう(笑)? 印刷屋は印刷することが目的であり、出版社は印刷することは本来、手段であって、目的は別にある。「志」というやつだな。

今回のDNPの動きは、出版文化の中心に立ち入ろうとする動きであり、本来の印刷業の王道を大きく踏み外してしまったような気がしてならないんだ。

小:ふむ。橘川さん、なんかインサイダー情報を掴んでるんじゃなの(笑)?

橘:業界で噂されている、今回の動きのキーマンは、丸善社長の小城武彦(おぎ・たけひこ)氏。DNPが丸善を買った時から、この辺の動きが一気にはじまっているよね。

小城氏は旧通産省出身で、出版構造の再構築、再販問題などを含めた経産省的な問題意識をもっているのだとしたら、間違えるんじゃないかなあ。官僚的視点は現状の処理には卓越した能力を発揮するけれど、まだ何も見えていない白紙の未来について思い描くことはできないと思うよ。現在のブックオフの経営陣も、マッキンゼーや銀行系の人たちのようだしね。


小:腐っても文化産業ですから、知のイノベーションを期待したいところです。だから、後ろ向きなことだけはしてほしくありませんね。

橘:ところで僕は「オンブック」というオンデマンド出版社やってるけど、この名前「ブックオフ」をひっくり返したものだって、知ってた?

小:なるほど。むかし橘川さんが渋谷陽一さんたちと立ち上げた「ロッキング・オン」から「オン」だけ取ったのかと思っていましたよ。いやあ、それにしても久々に紙の出版の話をしました(笑)。

 オンブック

2009.05.26 08:00:00 | Words by: Yukio Kitsukawa, Hiroto Kobayashi

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Reviewer メディア問題

橘川 幸夫  Yukio Kitsukawa

橘川 幸夫  Yukio Kitsukawa

72年、渋谷陽一と雑誌「ロッキングオン」創刊。全面投稿雑誌「ポンプ」ほか、数々のメディアを創刊。 CGMの草分けでもあり、いまも現役。現在、オンデマンド出版社「オンブック」社長、株式会社デジタルメディア研究所の所長を務める。仔細はこちら。


小林 弘人  Hiroto Kobayashi

小林 弘人  Hiroto Kobayashi

94年、雑誌「ワイアード」創刊。雑誌「サイゾー」からブログメディアの「ギズモード・ジャパン」まで数多くのメディアを創刊。眞鍋かをりのブログ出版ほか、IT業界の仕掛人として知られる。ウェブメディアの草分けでもあり、いまも現役。現在、株式会社インフォバーン代表。近著に『新世紀メディア論 新聞・雑誌が死ぬ前に』。仔細はこちら。